毎年、実習生が色んな意味で苦労する先輩がいるっていう噂は聞いていた。そして、担当教師の紹介をされた時、イヤな予感はピークになっていた。 (ダメよ千尋、見た目で人を判断しちゃ! まずは、挨拶、挨拶……) 私は、気を取り直して、人のことを上から下までじっとシツレイな視線で見つめている(ように見える)先輩に、大きな声で挨拶をした。 「あの……教育実習でお世話になります、綾里千尋といいます。よろしくお願いします!」 「ああ、神乃木だ。よろしくな、コネコちゃん。」 (こ、コネコちゃん……この人、素で言ってるのかしら!?) 私が引いて固まっているのも気にしないで、センパイは涼しい顔でコーヒーを飲んでいる。 「コネコちゃん……ひとつ質問があるんだが、いいかい?」 「は、はい、なんでしょうか……?」 実習生泣かせのセンパイだって噂だ。もしかして、いいかげんそうな外見からは想像もつかないぐらい厳しい質問が来るかも知れない。私は、気を引き締めてセンパイの方に向き直った。 「ああ、かなり大事な質問だ。」 気のせいか、今までただ私を眺めているだけだった視線が、何でも見透かしてしまうような鋭さを帯びたような気がした。あらためて、背筋がピンとなるような緊張を感じる。 「よし、覚悟は上等みたいだな……じゃあ、聞くぜ。」 「はい!」 「……その胸、ホンモノか?」 「…………は?」 一瞬、私の頭の中で時間が止まった。何を言われているのか聞こえてはいるのに、理解することを頭の中が拒否した……みたいな感じだ。 「あの、すみませんが、もう一度おっしゃって……」 「聞かれたことにはすぐに答える。アドリブのきかないセンセイ……カッコつかないぜ。」 「……! あ、あの、Gの70、です……。」 気おされた私が咄嗟にサバ無しのバストサイズを口走ってしまった瞬間、センパイは驚いたように私を見つめた。 そして、一瞬の後、こらえきれなくなったような大笑いが教員室中に響いた。 「……クッ。毎年、新人には度胸試しにキツい質問をプレゼントしてるんだが……アンタの答えは、今までで最高のインパクトだな。掛け値無し、だぜ。」 「…………な!」 からかわれたことに気づいたときには、もう遅かった。今や、教員室中の人が私の胸のサイズを知っている……考えただけでも、顔から火が出そうだった。 「ま、このぶんなら、これから当分退屈せずに済みそうだぜ。じゃあ、教室まで行こうか……コネコちゃん。」 こうして私の教育実習は、サイアクの出だしで始まった……。 |