証拠探しや資料調べは、熱中しだすときりがない。神乃木と千尋は書庫で古い事件のデータを探していたのだが、気がついた時には、もう勤務時間はとっくに過ぎていた。 「神乃木さん……もう、こんな時間ですよ。少し、休憩しなくて大丈夫ですか?」 もちろん千尋だって同じように調べものをしていたのだが、自分の疲れなど気づかずに神乃木を気遣うのも、いつものことだった。 そんな無私のやさしさを受けるたび、神乃木は、千尋を愛しいと思わずにはいられなかった。そして、その愛しさを行動に移したい……と思うこともしばしばだった。 すでに事務所に残っている者はいない時間である。神乃木にとって、気兼ねする理由はなかった。 「ああ、大丈夫だぜ。でも、ちょっと一息入れるのは悪くねえな。」 「そうですね。じゃあ、コーヒーでも入れて……!」 千尋が言い終わるより早く、神乃木は千尋の唇を自分の唇でふさいだ。そのまま、柔らかく舌をからめ、吸い上げる。 「んっ……」 突然のことでも、馴れた感覚には咄嗟に反応してしまう。しかし千尋は、職場であるという理性を懸命に働かせ、どうにか神乃木の腕から抜け出そうとした。 「ダメですよ、神乃木さん……仕事中、です……。」 「勤務時間外だ。時給で仕事してるわけじゃなし、文句を言われるスジアイはねえぜ。」 「でも、職場ですよ……。」 「愛し合ってるオトコとオンナに、場所なんてカンケイねえ。」 「もしかして、まだ誰かいるかも知れないじゃないですか……。」 「クッ……もう、オレたち以外に居残ってる物好きはいねえさ。」 千尋の懸命な抵抗も、ああ言えばなんとやらで意に介さない。押し問答をしながらも神乃木は千尋のスーツのファスナーをゆっくり下げて、豊かな谷間に手を滑り込ませる。 「きゅ、休憩なら、ほら、いつもの通りコーヒーで……」 「ダメだ。千尋がいい。」 「そんな、意地悪言わないでくださいよ、神乃木さん……あっ!」 苗字で呼ばれた瞬間、神乃木は知り尽くしている千尋の弱点を微妙なタッチで責めつけた。 「おっと……二人っきりの時は、荘龍。……それが、オレたちのルールだろ?」 「…………。荘龍……。」 千尋も、ようやくあきらめたらしい。 それは、仕事の時間から、恋人同士の時間へと変わる合図だった。 |