Relaxation



「千尋、どうした?」

 日付が変わろうとしている、夜更けの自室。キッチンから二杯のコーヒーを手に戻ってきた神乃木は、彼の記憶にはあまり馴染みのない千尋の姿に目を留めた。
 恋人の自宅を何度となく訪れても、「親しき仲にも礼儀あり」と言わんばかりにどこか緊張感の残る態度をなかなか崩さない千尋が、珍しく全身の力を抜き、伸び切った猫のようにソファに横たわっていたのだ。

「あ、すみません……ひとさまのお家で、こんなにだらだらしちゃって」
「ひとさまのお家、か。……相変わらず、千尋は律儀だな。何度も言ってるだろう? 我が家と思ってくつろいでくれて構わねえ、って」
「いえ、たとえどんなに近い関係でも、そのあたりをきちんとするのは大切だと思いますから。今日は、まあ、例外っていうか……ほら、ここ何日か、すごく忙しかったですから。さすがに疲れたなあ……って」

 居住まいを正そうとする千尋を押しとどめ、神乃木は千尋の邪魔をしないように気遣いながら、寝そべった彼女の横に腰掛ける。

「ああ、そうだな……確かにここしばらく、いつにも増してハードなスケジュールだった。いつも遅くまで付き合わせちまって、済まなかったな」
「いえ、そんな! 神乃木さんの方がずっと大変だったの、よく知ってますから!」
「そりゃ、オレだって忙しくなかったとは言わねえが……ライオンとネコが同じ狩りをしたら、ネコの方が負担が大きいのは当たり前だ。一人前のネコだって、キツいものはキツい。……そいつが自然のルール、ってやつだぜ」

 いつも通り己の身を差し置いて神乃木を気遣おうとする千尋を、神乃木は先制攻撃のようにくしゃくしゃと頭を撫で、思う存分にねぎらいの気持ちを伝えた。
 千尋は少しだけ反論したそうな表情を浮かべたが、おとなしく神乃木の厚意を受け入れることにしたようで、素直にされるがままになっている。
 その様子はあたかも、飼い主が猫を撫でるゆったりとした光景のようだ。

 しばしの間、二人はそのまま何を言うでもなく、互いの与える安らぎをのんびりと満喫し続けた。

「……そうだ。狩りでくたびれたネコには、それなりのケアってもんが必要だな。疲れてるところ済まねえが……ちょいと、起き上がってもらえるかい」

 そんな、撫でて撫でられる、のどかな時間の後。
 ふと神乃木は良いことを思いついたといった風情で、千尋の顔を覗き込んだ。

「あ、はい……」

 千尋がゆっくりと顔を上げ、上体を起こしてソファに腰掛ける。
 神乃木は彼女の背中から両肩に手を回し、自分に向かって後ろ向きに座らせた。

「よし、いいコだ。そのまま、リラックスしててくれ」
「はい……」

 神乃木は千尋を抱えるようにぴったりと後ろに座り、千尋の肩に手をかける。
 そしてそのまま、両手で千尋の首筋から肩にかけてのラインをすっぽりと包み、ゆっくりとマッサージを始めた。

「あ……そんな、悪いですよ! 肩もみなら、むしろ私が神乃木さんに……」
「言っただろう? 疲れたネコにはそれなりの手入れが必要だ、って。いいから、たまには大人しく甘やかされときな。こう見えて、マッサージは得意なんだぜ?」

 千尋が遠慮しようとするのをまったく意に介さず、神乃木は彼女の肩を少しずつ揉みほぐしてゆく。
 最初は軽く、徐々に力を入れてゆくにつれ、千尋の表情も次第に寛いだものになっていった。神乃木の手にぶつからないようにゆったりと首を回し、張りつめた首の筋を伸ばしながら、千尋は気持ち良さげに目を閉じた。

「……ありがとうございます。なんか、肩をもまれるなんて、本当に久しぶりで……気持ちいいです。昔、誕生日に妹が肩を叩いてくれたのが最後だから……ううん、何年ぶりかしら? ふふっ……ちょっと、懐かしいです」
「クッ……そうか。ふるさとのコネコちゃんは、きょうだいネコ思いだったんだな。……それにしても、随分凝ってるな。間違っても無理するなとは言えねえ状況なのはオレもよく分かっちゃいるが、あんまり肩肘張り過ぎるなよ」
「はい、分かっています。頑張りすぎずに頑張るのが大事だって教えてくれたのは、神乃木さんですから。あ……そこ、すごく気持ちいいです……」

 肩の付け根を強く押さえられた瞬間、千尋はうっとりとした声を上げ、ほうっと息を吐き出した。
 神乃木は千尋の喜んだポイントを逃さず、大きな手でさらにじっくりと揉みほぐしてゆく。

「……千尋の弱点は沢山知ってるが、ここは初めてだな。まだまだ、オレも知らないヒミツが見つかるもんだ……まったく底の知れないオンナ、だぜ」
「…………もう! ヘンな言い方しちゃ、イヤですってば……」

 たちまち耳まで真っ赤になった千尋を嬉しそうに背中から見つめ、神乃木はさらに力強く肩に置いた指に力を込める。

「ヘンな言い方なんて、してねえ。千尋が可愛いって言っただけで、フラチなオトコ呼ばわり……どうかと思うぜ。ヘンなことってのは……たとえば、こんな風にされることじゃねえのか?」
「……あっ!」

 一転、神乃木は千尋の肩に置いていた右手を素早く彼女の胸元に滑り込ませ、不意打ちのように彼女の左胸を揉みしだいた。
 千尋は頬を更に赤らめ、甘い声を漏らす。

「もうっ、いきなりそんなの、ズルいです……あぁっ!」

 案の定いつものように甘い悪戯を仕掛けてきた恋人に、千尋がささやかな抗議の声を上げる。
 片頬を上げて皮肉っぽい笑みを浮かべた神乃木は、いつも通り千尋の抵抗など意に介さず、余裕たっぷりに知り尽くした弱点を撫で回した。
 神乃木の器用に動く指先に、千尋の呼吸はたちまち熱さを帯びてゆく。

「クッ……やっぱり、千尋は感じやすいんだな。ここが、さっきまでの『気持ちいい』とは違う『気持ちいい』になってるのが、これ以上ないほど分かりやすく反応してるぜ」
「そ、それは、当たり前です……ふぁっ!」

 神乃木が固く立ち上がった胸の先端を二本の指で挟んで撫で上げると、千尋はさらに切ない声を上げた。
 喉元を反らした千尋の耳朶を軽く唇で挟み、神乃木は嬉しげに耳元で囁いた。

「当たり前って……何がだ?」
「あ……だって、荘龍に……そんな触り方……!」

 呼び名が名字から名前に変わったのを満足げに確認し、神乃木はさらに繊細に胸元の指をうごめかせた。
 息をのむ千尋の首筋に舌を這わせ、神乃木はさらに千尋の身体に熱を落としてゆく。

「そんな触り方をされちゃ、何だ?」
「……もう! 分かってる答えを言わせようとするの、悪いクセです……っ!」

 千尋の八つ当たりに近い文句など何処吹く風で、神乃木は肩に置いていたもう片方の手も千尋の胸に滑り込ませた。
 両手で両方の胸を掴まれ、敏感に勃ちあがった先端に指先を這わされ、千尋はますます切羽詰まった様子で息を呑む。

「……分かり切った答えだろうと、何度でも聞きたいものは聞きたいんだぜ。聞いた答えが可愛くて、それだけでアツくなれるって分かってるんだからな……」
「だ、だから、荘龍に……はぁっ、そんな触り方されたら……気持ち良くなっちゃうに決まって……ああっ!」

 ぬけぬけと言う神乃木に対して、千尋は抗議しても却下される諦めの境地にも似た心境で素直ないらえを返した。
 羞恥に耐えながら答える合間にも、神乃木の手は容赦なく千尋の弱点を責め続ける。
 千尋の豊かな胸元はすっかりはだけて、うっすらと桜色に染まった白い肌が露になり、すっかり固くなった二つの頂点が誘うように上向いていた。

「……ああ、オレの手で、もっと気持ち良くなっていいんだぜ……ここだけじゃねぇ、こっちもだ」
「あっ! ダメです、そこは……!」

 胸から下腹部にするすると片方の手を下ろし、神乃木の指は千尋の秘裂を荒々しく撫で回す。
 千尋の弱々しい否定の声とは裏腹に、そこはしっとりと熱い湿り気を帯び、難なく神乃木の指先を受け入れた。

「クッ……ここは、気持ち良くなり過ぎちまう、か?」
「はぁっ、だから、分かってることを言わせないでください……ああっ!」

 容赦なく一番敏感な身体の奥を掻き回され、千尋は背筋を反らして嬌声を上げる。
 神乃木の広い胸板に頭をもたれさせて乱れる彼女を皮肉っぽく、しかし愛しさを込めて神乃木は見下ろした。そして片手を千尋の肩に置き、背中越しから向かい合わせに千尋の身体をくるりと向き直らせる。

「言っただろう? 何度でも千尋の可愛い声を聞きたいし……千尋を気持ち良くさせたい。いくらでも触りたいし……一つになりたい。千尋……もっともっと、気持ち良くなっていいんだぜ……」

 愛撫の手を休めることなく、神乃木は千尋の身に着けていた衣服を、下着を、器用に取り払っていった。明るいままの照明にわずかな恥じらいを見せる千尋をよそに、神乃木は自らの身にまとったものも躊躇なく脱ぎ捨てる。
 神乃木は千尋の太腿を押し開き、濡れた柔らかい裂け目を、天を突いて屹立する自分のものに押し当てた。

「あ……荘龍、っ……!」
「千尋……っ!」

 神乃木の熱いものに刺し貫かれた千尋が、こぼれるように甘い声を上げる。
 彼を熱く迎え入れる快楽を堪えて神乃木も千尋を強く抱きしめ、愛する女の名を呼んだ。
 しっかりと深く繋がった部分をより強く混じり合わせるかのように、神乃木は千尋を強く突き上げ、彼女の最も奥深くを容赦なく打ち付ける。

「はぁっ、あ……荘龍が、こんなに奥まで……ああ、っ!」
「ああ、千尋……一番深くまで、アツくなってるぜ……クッ!」

 向かい合った体勢からより深い繋がりを求めるかのように、神乃木は腰の上に座らせた千尋を全力で突き上げ、千尋は浮きそうになる身体を押さえつけるように神乃木の肩にしがみつく。
 身体を強く揺さぶられるたびに千尋は身をよじり、大きく張った形の良い胸を惜しげもなく震わせた。

「ひあっ、あっ……荘龍、荘龍っ……あぁっ!」
「…………千尋、っ!」

 身体の最も奥深くから突き上げる強烈な快楽に千尋は嬌声を上げ、自身を包み込むようにからみつく熱い蜜に神乃木は息を詰め、二人は互いの存在を全力で貪りあう。
 いつしか神乃木のリズムに千尋も動きを合わせ、ひときわ強く押し上げるものを自分からより深く受け入れるうちに、彼女の深奥は熱く、深く、神乃木の全てを求めるかのように脈動していった。

「あ……もう、私……っ!」
「ああ、オレもだ……千尋……!」

 千尋の中が大きく脈打ち、神乃木を身体の最も奥まで吸い上げる。
 熱く、柔らかく、しかし容赦なく絡み付く彼女の奥底に、神乃木は限界まで引き絞った己の精を全力で解き放った。

 しばしの間、二人は一言もなくただ息を切らせ、身体をぴったりと寄せて互いを抱きしめ合っていた。
 やがて神乃木が顔を起こして千尋を愛しげに見つめると、千尋も視線を合わせて軽く微笑み、静かに唇を触れ合わせる。

「もう……やっぱり、こうなるんですね。……まあ、マッサージだけで済むとは思っていませんでしたけど……」
「クッ……ご不満だったか?」
「……だから。分かっていること、聞かないでください。そんなわけ、ないでしょう……?」

 千尋は悪い子を甘やかすように神乃木の頭に手を回し、額をこつんと合わせて悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
 神乃木は神乃木でまったく悪びれずに、そんな千尋を満足げに抱き寄せる。

「ああ、分かってて聞いた……可愛いカオは何度でも見たいし、嬉しい答えは何度でも聞きたいからな」

 千尋はもう一度神乃木を抱きしめ、優しく触れるようなキスでそれに応えた。

「荘龍……愛してる。疲れた私を気遣って肩を揉んでくれる優しいところも、こんなに明るい部屋でいやらしいことをしちゃう悪いところも、全部……」
「オレもだ、千尋……愛している」

 神乃木も啄むような軽い口づけを返し、愛猫を愛でるように千尋の背中をそっと撫でる。

 このまま安らいだ時を過ごすか、再び熱い恋人同士の時間となるか。
 久々に迎える二人きりの夜は、まだまだ始まったばかりだった。


 後 記 

FE覚醒の前回更新で書いたネタ(忙しかった二人が久々にいちゃいちゃ)を、
この二人だったらどんな感じの萌え展開があるかなあ……と妄想してみた時、

「密着して肩もみとか和むんじゃね?」→「体格差的に神乃木さんが揉む方が私好みかな」
→「和み展開もむろん良いけど、千尋さんに(肩もみで)気持ちいいとか言われたら普通滾る」
→「むしろ男としておいたをしない選択とかありえないだろう、まして神乃木さんなら!」

……という何ともアレな思考がすんなり繋がりw、このような形になりました。

例によって色々言い訳したいことは山ほどありますが、ノーコメントにしておきます。
読んでいただき、ありがとうございました!

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