聖王代理クロムと軍師ルフレの婚姻・王女ルキナの誕生と慶事が続き、ひとときの和平を謳歌していたイーリス王国。 平和なら平和なりに必要な決めごとまつりごともあるもので、政治や軍務をつかさどる役割に就く者たちは、皆それぞれに忙しく立ち働いていた。 ことに、ここ数日、ルフレは多忙を極めていた。 ルキナが生まれてからしばらくの間代理の者に任せていた執務に復帰し、本来在るべき国政の流れを引き継ぐ作業に追われていたのである。 (ふう……さすがに、少し疲れましたね。今日は、少しだけ早く休ませてもらいましょう) ルフレは心の中でひとりごち、ちょうどきりのいい所まで片付いた書類を机の上に戻した。 (頑張れば今日中に全部片付けられそうですけど、無理をして倒れたら元も子もありませんしね。それに……) ここ数日というもの、復帰初日から夜遅くまで働きづめで、ほとんど家族と触れ合いの時間を持てていなかった。せいぜい業務の隙間を縫ってルキナに乳を与えるのが精一杯、という有様だ。 (ここ何日か、クロムさんとほとんど話せていません。たまには、ゆっくり会って、話して、触れ合って……それから……) その先にはきっと、何度となく繰り返された甘い時間があるだろう。そんな想像をしてしまった自分が少し恥ずかしくて、ルフレは頬をぽっと赤らめた。 だが、気恥ずかしくはあっても、決して恥ずべきことではない……すぐにそう思い返し、いそいそと立ち上がる。 たまには、ちょっと大胆に自分から甘えてみようか……そんな少し悪戯っぽい思いを胸に、ルフレは自室へと向かった。 「おかえり、ルフレ。ちょうど、迎えに行こうと思っていたところだ」 「あ、クロムさん、お疲れさまです!」 夫婦の部屋に戻ったルフレを、既に軽装に着替えていたクロムが出迎える。 ルフレは幸せ一杯の笑顔を浮かべて夫に駆け寄り、クロムの顔をじっと見つめた。 「どうした?」 「あ、すみません。ここのところ、忙しくてあまり会えませんでしたから、嬉しくて……」 そんな彼女を愛しげに抱き寄せ、クロムはルフレの頭を優しく撫でた。 「ああ、そうだな。俺も、会いたかった。今日も遅くまで仕事をしようとしてたら、無理矢理にでも連れて帰ってこようと思っていたところだ……お前は、無理をし過ぎるからな。疲れただろう、ほら」 クロムがルフレの肩に手をかけ、軍師のずっしりとしたローブを外すよう促す。 黙っていれば一から十まで世話を焼かれてしまいそうな気配に、ルフレは慌てて一歩離れ、手早く身支度を整えた。 「ありがとうございます。クロムさんこそ、大丈夫ですか? 最近ずっと忙しかったのは、クロムさんも一緒ですよね」 「なに、お前に比べたら大したことはないさ。本当に、無理はするんじゃないぞ」 「はい、わかっています。私が倒れたら、余計に迷惑かけちゃいますから……だから今日は、こうしてクロムさんとゆっくりしたかったんです」 ルフレは再びクロムに近づき、彼の広い胸にそっと寄り添った。 二人ともそのまま互いの背に腕を回し、しっかりと抱き合う。 「……こうするのも、随分と久々な気がするな。ルフレ……愛している。やっぱりお前は、俺の半身なんだな……このまま、二度と離れたくない気分だ」 「私もです、クロムさん……」 顔を上げて目を閉じるルフレに、クロムが唇を重ねる。 始めは優しく触れるような口づけは、次第に熱を帯び、どちらからともなく舌を絡ませてゆく。 「んっ……」 ルフレが微かに声を上げ、身じろぎする。 その反応を躊躇と取ったのか、クロムは慌てたように唇を離した。 「す、済まん、疲れているんだったな。すぐに身体を休めたいなら、これ以上は、その……我慢する。……俺は、ルフレの望むように過ごせれば、それでいい」 気遣わしげに自分を見つめる青い瞳を見上げ、ルフレは小さく横に首を振った。 そして、恥じらいに頬を染めながら、そっとクロムの耳元で囁いた。 「いえ……我慢、しないで下さい。しないでいてくれた方が、嬉しいです。だって、私も……きゃっ!」 言葉を続けようとしたところをふわりと抱き上げられ、思わずルフレが声を上げる。 クロムは腕に抱いたルフレをベッドに下ろし、そのまま優しく押し倒した。 「なら、遠慮しない。と言うか……そんな可愛いことを言われちゃ、止まるものも止まらなくなるぞ」 「あっ……!」 クロムは悪さをする子供のような顔で微笑み、ルフレの首筋に唇を落とした。 そのまま鎖骨に沿って舌を這わせ、ちろちろと撫で下ろしてゆく。 「あ……クロム、さん……っ…………!」 「ルフレ…………」 クロムの舌先が鎖骨を撫でるたび、ルフレの身体が小刻みに震える。 ほんの少し触れただけで瞳を潤ませ頬を上気させた彼女を満足げに見つめ、クロムはルフレの上着を脱がして胸元に手を伸ばした。そして自分も身につけているものを脱ぎ捨て、柔らかな丸みを帯びた乳房を、外側から頂点に向かってじっくりと愛撫してゆく。 焦らすように動く指先に、ルフレの呼吸はたちまち熱い色を帯びていった。 「はぁ、あっ……気持ちいい、です……」 声を抑えながらも素直に自らの快楽を伝えてくる妻が、愛しくてたまらない……そんな愛情と満足感がこもった視線をルフレに向け、クロムは手を動かしたまま彼女の耳朶を吸い上げた。 「…………っ!」 「今日は特に感じやすいんだな……ルフレが可愛過ぎて、俺もどうにかなりそうだ。それに……少し、大きくなったか?」 「そ、それは、ルキナが居ますから、少しは……ひあっ!」 何気ない雑談から不意をつくように胸の先端を急に吸われ、ルフレは切ない声を上げた。 あえて触れずに焦らされていた刺激はことさらに強く、痛いほどの悦びが彼女の背中を駆け抜ける。気が遠くなるほどの快楽から咄嗟に逃げようと身体を浮かせかけたルフレをしっかりと押さえつけ、クロムはさらにちゅくちゅくと音を立てて吸い上げる。 強く吸い上げればびくんと背中を反らし、優しく舌先で転がせば小さく身をよじり……クロムが刺激を与えるたびに、ルフレは敏感に反応した。 「だ、ダメです、クロムさん……、そんなにされたら……そこだけで、おかしくなっちゃいます……っ!」 「ああ、おかしくなっていいんだ……まだまだ、可愛がらせて貰うぞ」 固く立ち上がった胸の先端を啄むと同時に、クロムは彼女の太腿に指を滑り込ませた。そして既にしっとりと濡れぼそった秘所を難なく探り当て、胸を転がす舌の動きに合わせて、熱い蜜で満たされた入り口をゆっくりと掻き回した。 「あっ、クロムさん……ああっ!」 指先を受け入れた瞬間、ルフレは白い下腹部を反らし、身体の奥底から突き上げる快感に身をよじらせた。 クロムは片方の手と舌でぬらぬらと唾液にぬめった胸先を、もう片方の手で熱い愛液の沸き出す秘部を、休まず執拗に責め続ける。 「…………!」 ルフレが鋭く息を吸い込み、全身をこわばらせた。一瞬の後、彼女の身体からはくたりと力が抜け、とろりと溢れたものがクロムの指先を濡らす。 大きくひとつ息を吐き、快楽の余韻に浮かされた瞳で己を見上げるルフレを、クロムは心底愛おしげに抱きしめた。 「ルフレ……愛している。可愛い顔も、乱れた顔も……全部、俺のものだ。誰にも渡さない」 「……当たり前です。こんな恥ずかしいとこ、クロムさん以外に見せられませんから……」 ルフレはクロムの背中に両腕を回し、ゆっくりと顔を上げて優しく唇を重ねた。 クロムもルフレの背中と頭をそっと撫でながら、唇、頬、額……と、あちこちに口づけを返してゆく。 「当然だ。ルフレ、俺だけのルフレ……」 「クロムさん……あっ……」 まだ情熱の名残りに脈打つ身体の奥に押し当てられたものを感じて、ルフレはかすかに身じろぎした。穏やかな余韻に満たされた身体に再び熱が高まる気配を感じ、ルフレは愛する夫の身にすがりついた。 「ルフレ……ルフレ、っ!」 「はい、クロムさん……あ、ああっ……!」 熱く昂ったクロムのものが、ルフレを一気に刺し貫いた。 既に一度達しているルフレの中は熱く膨らみ、クロムをきつく締め付ける。 「くっ、ルフレ……行くぞ……!」 一気に持って行かれそうになるのをこらえるように、クロムはルフレの肩を掴んで強く抱きしめた。そしてゆっくりと身体を引き、再び沈め、ルフレを揺さぶるように愛し始める。 「ひあっ、ああ……クロム、さん……はあっ、愛して、ます……あっ!」 突き上げられるたびに、ルフレは熱い嬌声を上げて身体をくねらせる。 沸き上がる快楽は熱いものを溢れさせ、胎内を脈打たせ、彼女とクロムの境界を崩してゆく。 快感が高まるほどに愛しさも高まるのを感じ、ルフレは全身の力を込めてクロムを抱きしめた。 「ルフレ、俺の半身……ルフレ、ルフレ、ルフレ……っ!」 始めはゆったりとしていた抽送は次第に激しさを増し、クロムの動きを早めてゆく。 「あ……クロムさん……ああっ!」 「…………ルフレ、っ!」 ルフレの中がひときわ大きく脈打ち、クロムのものを絞り上げる。 熱いものに突き動かされるままに、クロムはルフレの奥底に己の全てを解き放った。 意識が溶け合い、同時に登り詰めた高みをいつまでも味わうように、二人は互いの身体をしっかりと抱きしめ続けた。 やがてどちらからともなく見つめ合い、愛しさを確かめるように、ゆっくりと口づけを交わす。 「んっ……」 甘えるように喉を鳴らし、すっかり蕩けた瞳でルフレはクロムを見上げた。 クロムも優しくルフレを見下ろし、名残惜しげにルフレから自身を引き抜いて身体を起こす。 押し開かれた部分から白いものがとろりと溢れる淫らな光景が、直前までの熱く乱れた時を物語っていた。 「ルフレ……」 「……クロムさん。大好き、です……」 再び、ルフレはクロムを優しく抱いて、静かに唇を合わせる。 激しく熱いものから、穏やかで満ち足りたものに……二人の間に流れる時間は、ゆったりと姿を変えていった。 「ああ、俺もだ。本当は、いくらでもお前が欲しいが……あまり無理もさせられないからな。今日は、このまま俺の側で眠るといい」 「はい……クロムさん。私、幸せです……大好きなクロムさんに、こんなに大切にしてもらって。……ふふっ。もう少しゆっくりできるようになったら……続き、いっぱいしましょうね」 「勿論だ。その時は、朝まで寝かせないからな……覚悟しておけ」 「はい……おやすみなさい、クロムさん」 「ああ、おやすみ、ルフレ」 額にくちづけて、クロムはルフレをそっと抱き寄せた。 ルフレはクロムの逞しい胸元に頬を寄せ、静かに目を閉じる。 この世で一番好きな人から貰った力で、明日からまた頑張ろう……そんな思いを胸に、ルフレは眠りに落ちて行った。 ルフレの寝息を確かめてほどなく、しっかりと腕に妻を抱きしめたまま、クロムも眠る体勢に入ってゆく。 久しぶりに二人の時を過ごした幸せな夫婦は、また明日からの忙しい日々に向けて英気を養う。 夜のとばりに包まれた部屋は、次第に安らかな空気に包まれていった。 |