「はあ……わたくしには、少し難しいですけど……でも、なんとなくわかります。オジサマたちは、その……ほんとうに、『オトナのカンケイ』だったのですね」 春美は視線を斜め上に寄せた思案顔で、ゴドーの話を懸命に整理して考えた結論を彼に伝えてゆく。 「クッ……コネコちゃんは、おりこうさんだな。成歩堂の奴なんかより、よっぼどよくわかってるじゃねえか」 彼女の答えは、ゴドーの期待よりずっと深い理解を示していたらしい。 ゴドーは満足げにうなずき、大きな手を春美の頭に置いて、いとおしむように栗色の髪をなで付けた。 春美は親猫に毛づくろいをされる仔猫のように目を細め、幸せそうな表情を浮かべている。 「あの、オジサマ。なるほどくんも……いつか、そんな『オトナのアイ』で、真宵さまを包んでさしあげることができるのでしょうか?」 ゴドーを見上げ、春美がもう一つ質問を投げかける。 「……さあな」 「うう……やっぱり、難しいでしょうか?」 ゴドーの返事はあっさりした、身もふたもないものだった。 たちまちしょんぼりと肩をすぼめる春美に、ゴドーは軽く微笑みかけ、言葉を続ける。 「いや、そうは言ってねえさ。おりこうさんのコネコちゃんなら、もうわかるはずだ……大切な相手を思うやり方は、人それぞれってことが、な。そもそも、成歩堂が大きいコネコちゃんをどう思ってるのかわからねえが、もしそうしたいなら……奴は奴なりに、大きいコネコちゃんを幸せにしようとするだろうさ」 「なるほどくんなりに、ですか……。なんだか、わたくし、やっぱり心配になってきました……」 「クッ……たしかに、な」 ゴドーの話を聞いた春美が、ほっとしたように笑顔を浮かべる。 しかし、少し思案したのち、また不安げに肩を落としてしまった。 年齢の半分も行かない少女に頼りがいを心配される男の顔を思い浮かべてか、ゴドーは可笑しげに微笑み、皮肉っぽく片頬を上げた。 と、その時、玄関の方向から、扉の開く重い音が響いて来た。 「あ、お二人とも、もう帰っていらっしゃったみたいですね……あの、オジサマ」 「なんだい?」 春美が、二人を出迎えるべく席を立つ。 扉に向かって数歩歩いたのち、大事なことを言い忘れたとばかりに急に立ち止まり、彼女はゴドーを振り返った。 「今日オジサマに相談したこと……お二人には、ナイショにしてくださいませんか」 「もちろん、かまわねえさ。オレと、コネコちゃんだけのヒミツ……だぜ」 春美のささやかな願いを、ゴドーは快く引き受けた。 そして、悪戯っぽい笑みを浮かべ、春美に小指を差し出す。 「……はい! ありがとうございます! ……ふふっ、指切りげんまん、ですね!」 春美の少しませた笑顔も、やはり悪戯っぽく。 随分と大きさの違う小指を触れ合わせ、小さな秘密を共有した二人は、そっと共犯者めいた視線を交わした。 「さあ、お出迎えに行ってきたらどうだい」 「ええ!」 春美は元気良く後ろを向き、今度こそ迷わず扉に向かってぱたぱたと駆け出した。 「なるほどくん、真宵さま、お帰りなさいませ! ゴドーのオジサマがいらっしゃってますよ……」 遠ざかる春美の声を聞くゴドーの表情は、柔らかい。 静かな秘密の時間は、賑やかな団欒の時間に切り替わろうとしていた。 |