ファースト・インパクト/1



 年に一度の、新人入所の日……今年も、この日がやってきた。
 顔合わせという大義名分で全員雁首揃えてやたら早い時間に出勤しなきゃならない、オレにとっては面倒なだけの一日だ。おかげで今朝のコーヒーは3杯しか飲めなかった……調子は最悪だ。

 さて、今年はどんな面子が増えるんだか。大した期待もせずに、オレは星影法律事務所のドアを開けた。


「おはようございます!」

 所長室の重い扉を開けると、律儀に早くから来ていた連中が口々に挨拶を浴びせてくる。
 というより、ジイさんを除いてはオレが最後のようだ。

 不十分なモーニングコーヒーでどうにもまだ目が覚めていないので、適当な生返事を返しつつ、ジイさんの到着を待つことにした。
 ほどなく、立派なハラを揺らせて星影のジイさんが部屋に入ってきた。

「フム、感心感心。全員揃っておるようぢゃな。では、本年度の星影法律事務所・年度始めの朝礼を始めるぞい。新人諸君は前に出て、ワシの隣に並んでくれたまえ」
「はい!」

 それぞれに気合いの入った返事をして、新入りたちが前に出る。
 いかにもエリート然とした兄ちゃんと、『苦労人です』と顔に書いてあるようなオヤジさんと、元気がウリとプロフィールに書いてありそうなお嬢ちゃんの三人……どうやら、今年は少し多めに取っておいて一人でもモノになればもうけもの、ってとこなんだろう。

 野郎どもはどうでもいいが、丁度オレの正面に立っているお嬢ちゃんは、これからなかなか目を楽しませてくれることになりそうだった。いかにも世慣れていなさそうでちょっと野暮ったい感じはするが、それでも精一杯キメキメのスーツで頑張っている様子はちょいとほほえましくて、なかなか悪くない。顔立ちも、可愛いと言って文句を言う奴はいねえレベルだろう。

 そして何より、プロポーションが掛け値なしの特級品だ。

 大胆に開いた襟元からのぞいているバストは、デカいだけじゃなく張りも形も申し分なし。ウエストは、無理にベルトをしめつけているのではないとわかる自然なラインでキュッと締まっている。ヒップから太ももにかけては、運動でもやっていたのか、しっかり肉付きがあるのに太さを感じさせない健康的な色気が、短いスカートの前に開いたスリットから見え隠れしていた。
 ちょいとエロオヤジみたいで気が引けるが、おかげでジイさんどもの訓示を聞いてなきゃならねえ間も退屈せずにすみそうだ。


 星影のジイさんが、毎年変わらねえ抱負だの弁護士の心構えだのを一席ぶった後、新人挨拶が始まった。

 まず一番手は、エリート風の兄ちゃん。在学中に現役合格したのがよほど自慢のようで、自分にできないことなどないと思ってやがるのがミエミエの生意気なスピーチをかましてくれやがった。
 こういう手合いは、法律を知ってりゃいいってもんじゃねえ、ウエットな人間関係がからんだ民事あたりを扱ったらとたんにボロを出す。期待薄……だな。

 次は、苦労人風のオヤジさん。公務員として勤め上げながら夜中に勉強を続けて苦節十ウン年で志を果たしたらしく、謙虚かつクソ真面目な挨拶だ。
 根性と人柄は保証つきだろうからその点は心配ねえだろうが、海千山千の札付き野郎を相手にしなきゃならなくなった時、どこまでしたたかにやれるか……それ次第ってところだろう。

 さて、最後は例のお嬢ちゃんだ。見かけのほうでは楽しませてくれたが、カンジンの中身のほうはどうなのか……お手並み拝見、といくか。


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