「お待たせしました。もしかしたら見落としがあるかも知れませんけど、気づいたものは全部チェックしておきました。他に、何かお手伝いできることありますか?」 オレがあらかた必要な資料の目星をつけたのとほぼ同時に、コネコちゃんがファイルを持って戻ってくる。 渡されたファイルを見ると、何の資料なのか一目でわかるように書き込んだ付箋があちこちに貼ってあった。軽くめくってみただけで、オレが期待していた以上に有益な情報がたくさんピックアップしてあるのがよくわかる。 「いや、こっちももう片付いたところだ。これだけの時間で、よくこんなに見つけられたな。……上出来、だぜ」 「ホントですか?」 思ったままにねぎらってやると、コネコちゃんはたちまち、飼い主にエモノをプレゼントして褒めてもらった猫が尻尾をピンと立てるように、意気揚々とした様子になった。 休日に呼び出された恨みも、どうやら今の褒め言葉で帳消しにしてくれたらしい。 「ああ、大したモンだ。ご褒美に、予定よりちょいとランクを上げたランチをオゴっちゃうぜ」 「ありがとうございます。じゃあ、これ片付けてきますね」 コネコちゃんはカップやポットを手早く回収して、いそいそと部屋を出ていった。気持ちがそのまま出るのは顔だけじゃないようで、さっきとはまったく違う嬉しそうな歩き方だ。 オレもさっさと出かけたいのは同じだったので、手早く準備を整えることにした。 資料をまとめて出かける支度を済ませると、コネコちゃんがぱたぱたと駆け足で戻ってきた。遅い昼飯が待ち遠しくてしょうがないようだ。 「……コネコちゃん、廊下は走るなって学校で習わなかったか?」 「あ、すみません。なんか、お仕事が終わったと思ったら急にお腹が空いてきちゃって。そういえば私、まだ朝ご飯も食べてないんですよ……誰かさんに、急に呼び出されましたからね」 ハラが減ってる原因を今さら思い出したようで、珍しくコネコちゃんのほうから皮肉のジャブが飛んできた。もっとも、興味はすでにランチのほうに行っているらしく、顔は怒っていない。 「……クッ、そりゃ、悪いことをしたな。じゃあ、行くか?」 「はい!」 そんなコネコちゃんを軽くいなして立ち上がると、待ってましたとばかりにコネコちゃんもバッグを手にお出かけ態勢に入った。……こりゃ、そうとうボリュームのあるものをご馳走してやらなきゃおさまらなそうだ。 やっぱりコネコちゃんは、まだまだ色気より食い気なお年頃らしい。 「センパイ、どうしたんですか? 妙に嬉しそうにヒトの顔見つめて……なんか、失礼なこと考えてません?」 「いや、どうもしねえさ。じゃ、行くぜ」 どうやら、ハラが空いて頭のほうも冴えてきたらしい。ようやくコネコちゃんも、いつもの調子でジャレついてくるようになった。 オレもいつも通りにあっさり受け流すと、コネコちゃんはひとこと言いたそうにしつつも、素直にオレの後ろについてくる。 さて、どこに連れていこうか……オレは、コネコちゃんが喜びそうな店を考えながら、事務所のドアを開けた。 |