探し物/1



 オレが事件の資料を探しに資料室 ……この事務所はいつでも事件を有り余るほど抱えているだけあって、資料のボリュームもちょっとした図書館並みだ…… に入ると、どうやら、先客がいるようだった。

 後ろ姿だが、間違いない。……コネコちゃん、だ。

 部屋の奥のほうで、オレが入ってきたことにもまったく気付かず、熱心に探し物をしている。あの辺りは確か、だいぶ古い事件のファイルがまとめてある棚のはずだが……そんな所に、何の用なんだ?
 オレは、いつもならコネコちゃんが専売特許にしてる、好奇心いっぱいって心境になった。調べ物は後回しにして、ちょいとコネコちゃんを観察してやるか。


 コネコちゃんに気付かれないように、オレはホンモノの猫よろしく気配を殺して忍び寄った。探し物に夢中のコネコちゃんは、もちろんオレに気付くはずもない。死角になっている棚をうまく使って、ファイルの背表紙が読めるぐらいの距離まで近づくことができた。


 どうやらコネコちゃんのエモノは、十年ちょっと前ぐらいに起こった事件の資料らしい。年代順に並べられたファイルのラベルを、一つずつ丹念に目で追っている。

 一つの棚を隅々まで探しつくしても目的のものはなかったらしく、コネコちゃんは次の棚の一番上に視線を移した。
 その途端、後ろ姿でもはっきりと分かるほど、コネコちゃんのボルテージが一気に上がった。それこそ、猫がエモノを見つけて、すぐに飛びかかれるよう臨戦体勢に入ったような様子だ。

 コネコちゃんは、手を伸ばしてファイルを取ろうとする。しかし、コネコちゃんにはちょいとばかり位置が高すぎるようで、パンプスの踵を浮かせて懸命に背伸びをしている。なんとかファイルに手は届いているが、ちょっとバランスを崩したら転んじまいそうで、見ていて危なっかしいことこの上ない。

 よし、ちょいとばかり手助けしてやるか……。オレは、コネコちゃんの後ろに忍び寄って、ファイルに手を伸ばしながら声をかけた。

「コネコちゃん……そんなに伸びきってると、可愛い足のツメが割れちまうぜ?」

 そう言って、オレがファイルをつかんだ瞬間。

「きゃっ!!」

 コネコちゃんはよっぽど驚いたのか、尻尾を踏まれた猫のように悲鳴を上げて飛び上がった。

「…………!」

 オレは慌てて倒れかかってきたコネコちゃんを抱き止めようとしたが、突然のことでどうにもならない。コネコちゃんを押しつぶさないように受け身を取るのが精一杯で、二人仲良く派手にすっ転んじまった。


「……………………」

 先に我に返ったのは、オレの方だった。ちょいと背中が痛むが、どうやら頭は打っていないらしい。そうだ、コネコちゃんは大丈夫か……!
 オレは、慌てて顔を起こした。


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