探し物/2



 まず、目に入ってきたのは、コネコちゃんの頭のてっぺんだった。ちょうどオレの胸のあたりに倒れたようで、これなら少なくとも頭は打っていないだろう。それがわかっただけでも安心だ……どうにか状況を把握する余裕も出てきた。

 よく見るとコネコちゃんは、オレの両脇に手をつくようにして、まっすぐオレの体に覆いかぶさっている。そして、ハラのあたりに感じる、弾力のある二つの柔らかいふくらみ……。

 そう。オレはちょうど、コネコちゃんに押し倒されたような格好になっていたってわけだ。

「ううん……」

 その時、ようやくコネコちゃんが目をさました。どうやら、まだ寝ぼけているらしい……よし。強烈なボディプレスのお礼に、少し遊ばせてもらうとするか。

 オレは、コネコちゃんの肩に手をかけ、とっておきの声で耳元に囁いてやった。

「大胆なオンナ……もちろん、キライじゃねえさ。だが、ここは誰でも入れるオープンスペース、だぜ。一応、ドアに鍵をかけてからにしてもらえねえか……?」

 コネコちゃんは、すぐには何が起こっているのか理解できなかったようだ。そこでとどめに、軽く耳に息を吹きかけてやる。

「きゃっ!」

 コネコちゃんはよほど驚いたようで、弾かれるように跳ね起きた。そしてオレの顔を見つめ、ようやく状況を理解したらしい。いつにも増して猛烈な勢いで顔を真っ赤にして、文字どおりオレの上から飛びのいた。

「あ、あの、違います、私、そんなはしたない女じゃ……あ、そうじゃなくて! えっと……その、ゴメンなさいゴメンなさい! ケガ、ありませんか!?」

 自分でも何を言ってるかわかってないんだろう。いっぱいいっぱいのコネコちゃんは、本当に何度見ても退屈しない。
 おっと、とりあえず安心させてやらねえとな。

「ああ、大丈夫だ。ところで、探し物はコイツで良かったのか?」

 オレは、床に落ちていたファイルを拾って立ち上がり、そいつをコネコちゃんに渡してやった。

「あ……は、はい!」

 コネコちゃんは、妙に慌ててファイルを受け取った。

 古ぼけて茶色くなったファイルのラベルには、『DL6号事件』とでっかく書いてある。

 その事件の名前には、オレも聞き覚えがあった。詳しいことは知らねえが、確か、かなり昔にこの事務所で扱った、大きな事件だったはずだ。

「『DL6号事件』……また、ずいぶん古いモンを引っぱりだしてきたな。何か、想い出でもあるのかい?」

 オレが何の気なしに聞くと、コネコちゃんは、露骨にうろたえた表情を見せた。

「え! あ、その……えっと……そう! ここで扱ったとても難しい事件だって聞いたんで、勉強になると思ったんです。べ、別に、深いイミはないんですよ」

 ……あからさまに目が泳いでいる。どうやらコネコちゃんは、ウソや隠し事には根っから向いてないらしい。
 まあ、話したくない事を無理に聞き出すほどオレは野暮な男じゃない。ここはひとつ、話をそらしておいてやるか。

「そうか、そりゃ感心だな。ところで……」

 オレは、コネコちゃんの耳元に顔を近付けて、さっきよりもっとフェロモンたっぷりに囁いてやった。

「鍵、かけなくていいのか? オレは、真っ昼間のオフィスでも、別に構わねえぜ」
「…………!」

 コネコちゃんは、胸の前をガードするようにファイルをしっかりと抱きしめ、顔を真っ赤にして飛びのいた。

「だ、だから、さっきのは……もう!」

 話がそれて安心するのも忘れて、コネコちゃんは背中を丸めて毛を逆立てた威嚇モードに入っている。……よし、これでいいだろう。人は誰でもココロに仮面をつけてるもんだ。コネコちゃんの気が向いたら、その時に話してくれりゃいいさ。

 要らねえ詮索より、コネコちゃんをからかう次のセリフを考えてるほうがよっぽど楽しいからな。


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 後 記 

……すんません。セクハラまがいどころか、完っ全にセクハラですね(汗)。
っていうか、星影先生の事務所って、けっこう密室が多そうなので、
妄想ポイントには事欠かないと思いませんか?(←開き直り(^_^;)

今はまだ「センパイ」と「コネコちゃん」なのでシャレで済んでますけど、
「千尋」と「荘龍」になったら、きっと一度や二度ぐらいは、そんなイケナイ
ヒミツの時間があったんじゃ……なんて、妄想は広がる一方です。(←さらに居直り)

どっちか言うとこれぐらいのじゃれあっている程度の方が好みなんですが、
いつか酔った勢いとかでオトナ向け版を書いても殴らないで下さいませ(^_^;。
読んでいただき、ありがとうございました!