ファースト・インパクト/4



「無邪気なお嬢ちゃん……キライじゃないぜ。だが、ちょいとばかり気をつけた方がいいことがある」
「は、はい……」

 相変わらず惜し気もなく谷間を放り出したまま、お嬢ちゃんは目を丸くして聞いている。

「堂々と見せびらかされた極上の宝石は、たしかにキレイだぜ。だが、あんまり眩しい煌めきは、時に見る者の目を焼きつくして、ソイツのほうをまともに見られなくしちまうのさ……」
「……? あの、すみませんけど……どういうイミでしょうか……?」
「……クッ。カンタンに言っちまうと、だな……。もう少しばかりスーツのファスナーを上げるか、せめて見えても目立たないように、服と下着の色は合わせた方がいい……そういうことだ」

 ……言っちまった。さて、どうなることやら……オレは、とりあえず何が来てもよけられるように、さりげなく足場を整えた。

 ここまでハッキリ言ってやって、ようやくお嬢ちゃんはコトの次第を理解したようだ。姿勢を変えるのも忘れて固まったまま、みるみる顔が赤くなっていく。

「……………………」

 異様に長く感じられた一瞬の後、お嬢ちゃんは、オレが今まで法廷で聞いてきたどんなやつよりもド派手な悲鳴を上げた。


「な、な、何ごとぢゃっ!!」

 廊下が抜けそうな地響きを立てて、星影のジイさんが部屋に飛び込んできた。事務所に残っていた他の連中も、騒ぎを聞きつけてわらわらと集まってくる。

「…………」

 お嬢ちゃんは、野次馬どもに取り囲まれて、初めて自分が悲鳴を上げたことに気がついたらしい。オオゴトになっちまった実感がわいてないのか、まだボーゼンとしている。

「何があったんぢゃ、千尋くん! ま、まさか、神乃木くんに、何か……」

 おいおい、勘弁してくれ……ただでさえオレは、ちょいとばかり派手なナリのせいで、色々と要らねえ誤解をされやすいってのに……。

「……あ! い、いえ、違います! その、私、ええっと……!」

 しどろもどろになるお嬢ちゃんを見て、ジイさんをはじめとした野次馬どもの視線が、いっそうオレの有罪寄りな雰囲気に染まっていく。

「…………! そ、そう! 今、お部屋に、ネズミが出たんです! 私、ネズミとサンショウウオだけは生まれたときから駄目で、その……あ、でも、どっか行っちゃったんで、もう大丈夫ですっ! すみません、お騒がせしました!」

 ……オレから見ても相当に苦しい言い訳だ。だが、本人が大丈夫と主張している以上、あえて突っ込んでくる度胸のある奴もいないようだった。

「そうか……ま、まあ、チミが大丈夫と言うならいいんぢゃ。その、まあ……気をつけるんぢゃよ」

 星影のジイさんがモゴモゴ言ったのをきっかけに、野次馬の連中もパラパラと散っていく。
 そして部屋の中には、間抜けヅラのオレたちだけが残された。


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