二人きりの残業’/2



「いいコだ、千尋……。」

 神乃木は千尋の耳元で囁き、軽々と千尋を抱き上げて、膝の上に乗せながらデスクに腰掛けた。
 千尋の身体は女性としては決して小柄なほうではないが、神乃木の広い胸元にすっぽりとおさまって、包まれるように抱きしめられている。

「……いいコは、職場でこんなことしませんよ……っ!」

 千尋のささやかな口答えを、神乃木は甘いキスで封じ込めた。差し入れた舌を絡ませていくうちに、千尋の頬がじわじわと濃い桜色に染め上げられていく。

「ふぅ……んっ…………」

 神乃木は舌を抜き、今度は千尋の耳に口元を寄せる。

「あっ……」
「愛し合ってるオトコとオンナが二人きりなら、そこが何処だろうと二人だけの特等席、だぜ」

 囁きながら、神乃木は千尋の耳たぶを舌で柔らかく刺激する。

「はんっ……!」

 それだけで、千尋は弾かれたように身体を震わせた。

 神乃木はさらに舌を首筋に這わせながら、乱れたスーツからこぼれている豊かな胸に手を伸ばす。
 探り当てるまでもなく、神乃木の指先には固く尖ったものが触れた。

「で、でも、やっぱり……こんなところじゃ、ダメです……あぁっ!」

 身体が示している正直な反応は隠しようもないのを分かっていながら、千尋はなお力ない抵抗の言葉を洩らす。
 神乃木は容赦なく、立ち上がって敏感になっている胸の先を指で撫で回していく。

「こんなに分かりやすいウソなら、尋問するまでもねえな。『ダメだけど、でもそうしてほしい』……コイツは、はっきりそう言ってるじゃねえか」
「はあっ、だ、だって……荘龍に、そんなこと……ひあっ!」

 鎖骨沿いに舌を這わせていきながら、神乃木の手は休むことなく動き続けている。

「オレに、何だ?」
「そんなふうにされたら、気持ち良くなっちゃうに決まってるじゃないですか。ズルいです……」

 千尋は、潤んだ瞳でうらめしそうに神乃木を見上げた。
 神乃木はそんな千尋の言葉を、ニヤリと笑って余裕たっぷりに受け流す。

「人のせいにするのは良くねえな。オレから言わせりゃ、そんなふうに可愛い顔をされちゃあ、手を出したくなるに決まってる……ってことになるんだぜ」
「そんな……あっ!」

 ひときわ強い愛撫が、千尋自身も無駄だと分かっている反論を封じ込めた。

「もちろんオレは、嫌がるオンナを無理やりどうこうする下司な趣味はねえ。……本当にイヤだったら、やめてもいいんだぜ?」

 答えのわかりきった返事を迫る神乃木を、千尋は上目遣いでにらみ付ける。

「…………。分かっているくせに……」

 千尋の恥じらう顔を満足そうに眺めながら、神乃木はさらに意地悪い笑みを浮かべた。

「それじゃ、答えになってねえな。どうして欲しいのか、はっきり言ってみな」
「…………!」

 そんなこと言えるわけがないとばかりに、千尋はますます顔を赤らめた。
 しかし、いくらすがるような目で見つめても、神乃木は嬉しそうに千尋を眺めているだけである。

 しばしの間を置いてようやく、千尋は消えそうな声でつぶやいた。

「……いっぱい、触って。もっと、気持ち良くしてほしいの……」



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