個人面談/5



「それによ、センセイ……『今ならまだ』大丈夫だからやめよう、っていうのは、ちょいとばかりムシが良すぎねえか? あんなにいやらしく煽っておいて……」
「だ、だから私、煽ってなんかいないって言ってるでしょう……」
「……さっきも言っただろう。自覚がないのが、一番タチが悪いんだよ」

 神乃木は、千尋の上気した頬をなぞって細い顎に手を触れ、彼女の顔を引き上げながら呟いた。

「こんな潤んだ目で見つめられて、あんな色っぽい声出されたんだからな……オレのほうは、もうとっくに止められなくなってるぜ。いくら鈍感なフリの得意なセンセイでも……これなら、わかるだろ」
「…………!」

 今度はいきなり腰を抱き寄せられ、千尋が声にならない驚きの声をあげる。

「今、アンタのウエストに当たってるモンがなんなのか、どういうことなのか……まさか、わからないとは言わねえよなぁ?」

 熱く、固く、いきり立った昂り。
 細い腰に押し当てられたものを直に感じて、千尋は息を呑み、ますます顔を赤らめた。

「アンタのせいだぜ。なんとかしてくれよ」
「そんなこと、言われたって……!」
「ここで生殺しにされたまま放り出されたら、帰りにオンナの二、三人は引っかけねえと、おさまらねえだろうな。センセイが責任取ってくれなきゃ……不純異性交遊の前科持ちが、もっと増えることになるぜ。それでも、いいのか?」

 意地悪く微笑んで、神乃木が千尋の目を覗き込む。

「そ、それは、困るけど……」
「じゃあ、話はカンタンだろ。ここで、問題を解決しちまえばいい……気持ちよく、な。オレは、平和な気分で悪さをせずに帰る。センセイは、オレにナンパされるはずだった生徒の貞操を守れる。お互い、いいことずくめじゃねえか」

「……………………」

 千尋は、困り果てた様子もあらわに、黙り込んだまま神乃木を見つめた。
 心の揺れ動きが見えるようにさまよう彼女の視線を、神乃木は斜に構えた表情を崩さずに、平然と受け止めている。

 もはや、勝敗は決したも同然だった。

「…………。私が、その……責任を、取ったら……。今日は、これ以上何もしないで……まっすぐお家に、帰ってくれる……?」

 かすかに乱れた息遣いだけが静寂を破る、長い沈黙の後。
 かすれた声で、一言ずつ絞り出すかのように、千尋が口を開いた。

 ニヤリと唇の端を歪め、神乃木は答える。

「……クッ。“責任の取り方”次第、だな。じゃあ、聞くけどよ……センセイは、ナニをしてくれるつもりなんだ?」
「…………! だから……神乃木くんが、落ち着くように……」
「それじゃあ、わからねえな。見てのとおり、オレはこれ以上ないぐらい落ち着いてるぜ。何をどうしてくれるのか、オレにもわかるように説明してくれよ」

 あからさまな言葉を言わせようとしている以外の何物でもない態度に、千尋の頬がみるみる熱く染まってゆく。

「だ、だから……さっき、神乃木くんが言っていたことよ!」
「オレは、具体的なことなんか何一つ言っちゃいねえぜ」
「…………!」
「さあ、教えてくれよ。どうやって責任を取ってくれるっていうんだい、アンタは」

 さらに意地悪くニヤニヤと見つめる神乃木を、千尋は耳まで真っ赤になって恨めしげに睨みつけた。
 もちろん、神乃木はまったく動じる様子もない。

「……………………」

 しばしの間をおいて、千尋は観念したように小さくため息をついた。

「…………。だから、神乃木くんの……」

 千尋が、越えてはいけない一線を恐れるかのように、ゆっくりと手を伸ばしていく。

「こんなになっている……これ、を……」

 千尋の指が、はち切れんばかりにそそり立っているものに、そっと触れた。

「普通に、なおしてあげるために……こんな、ふうに…………」

 固く張りつめた曲線に沿って、千尋が指を滑らせる。

「…………!」

 その途端、自分のごくささやかな動きよりもずっと激しい反動が返ってきたのに驚いて、千尋は思わず手を離した。


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