「…………」 「な、なんだね……?」 ずかずかと真っ直ぐに向かってきて無言で彼らを見渡した神乃木に、千尋を取り囲んでいる男たちは、気圧されて思わず道を譲った。 「あ、センパイ……」 輪の中心に座っていた千尋が、とろんとした目でゆっくりと神乃木を見上げる。 どうやらかなり飲まされたようで、顔だけでなく、首筋まで真っ赤になっていた。 「どうやら、マタタビを無理に食わされて、酔っぱらっちまったコネコがいるみたいだな……」 神乃木は、周りをもう一度睨むように見回してから、彼らに向かってふてぶてしく笑いかけた。 「酒を飲ませて、遊ぶ気のないコネコを無理やり構おうとするオトコ……カッコつかねえぜ」 「…………なッ!」 あからさまな当てこすりに、男たちが顔を引きつらせる。しかし、神乃木に鋭く睨みつけられると、のどまで出かかっていた文句も引っ込んでしまったらしい。 彼らは何か言いたそうにしながらも、ただ黙り込んで神乃木を見ていることしかできないようだった。 「あの……私なら、だいじょ、ぶ、ですから……」 緊迫した雰囲気をどうにかフォローしようとしたのだろう。千尋は神乃木に向かって、自分は平気だと懸命に伝えようとする。 だが、ぼんやりした視線とろれつの回っていない言葉は、千尋の思いとは裏腹に、“大丈夫”にはほど遠いことを雄弁に物語ってしまっていた。 「……本当に大丈夫な奴は、わざわざ『大丈夫』なんて言わねえ、ぜ」 神乃木は、千尋に向かって大きく一歩近付いた。 有無を言わせない迫力に、周りの男たちも思わず身を引く。 そんな彼らをしり目に、神乃木は千尋にぴったりと寄り添い、彼女のそばにかがみ込んだ。 「……えっ!」 千尋が、驚いて小さな悲鳴を上げる。 (な、なに……?) 千尋は、何が起こっているのかは分からなかったが、急に身体がふわりと浮上がったように感じた。 「保護責任、ってやつだ。“大丈夫”じゃないコネコは……きっちり、飼い主が面倒を見る。そいつが、オレのルールだぜ」 まるで、猫の仔を拾い上げるかのように。 神乃木は千尋の身体を軽々と抱きかかえ、すっくと立ち上がっていた。 「せ、センパイ……!」 突然のことに、部屋中の人間が二人に注目する。 千尋は慌てて降りようともがいたが、神乃木はしっかりと抱きとめた手を離さず、びくともしない。 「神乃木くん、キミは……!」 「おっと、道を空けてもらうぜ。のぼせたコネコを、静かなところへ連れてってやらなきゃならねえんでな」 我に返った男たちが何か言おうとするのを制して、神乃木は彼らにくるりと背を向けた。 そのまま真っ直ぐに部屋を出て行く神乃木を、彼らはただ黙って見ていることしかできなかった。 |