歓迎会/3



「お待たせいたしました!」
「ああ、いっぺんに頼んじまって悪いな。そのまま置いていってくれ」

 しばらくして店員が抱えてきたのトレーいっぱいのドリンクを、神乃木はそのまま受け取って畳の上に置いた。そして手早くテーブルの上に並べ替え、代わりに空いたグラスを乗せて部屋の端に寄せる。

 まず神乃木は、赤のボトルワインを手に取った。そして部屋を見回し、すっかりできあがってご機嫌の星影をつかまえて話しかける。

「よう、すっかりいい気分のようだな、ジイさん」
「……ん? おお、おお、神乃木くんか! どうぢゃね、飲んどるかね?」
「ああ、いつも通り好き勝手に飲らせてもらってるさ。……ところで。あそこの新人、ちょいと淋しそうじゃねえか?」

 そう言って神乃木は、千尋を口説いていた若者のほうを指差した。まだ千尋が戻ってきていないので、一見すると彼は独りで飲んでいるように見える。

「む……本当ぢゃな。イカン、イカンぞお! 若いモンが一人酒など、まことに嘆かわしい限りぢゃ!」
「オレもそう思うぜ。ここはひとつ、所長自らウチのルールってやつを教えてやっちゃあどうだい?」

 神乃木が片目をつぶって赤ワインのボトルを差し出すと、星影は我が意を得たりとばかりにボトルを奪い取った。

「その通りぢゃ! 神乃木くんは気が利くのお、感謝ぢゃよ。どれ、ちょっと行ってくるわい!」

 星影は、その巨体からは想像できない身軽さで彼のもとに駆け寄り、千尋が座っていた席にどっかりと腰を下ろした。

「こりゃチミ、若いモンが一人淋しく飲むなんて、もってのほかぢゃぞ! ほら、とっととグラスを空けるんぢゃ!」
「あ、所長……いえ、自分はですね、」
「問答無用ぢゃ! ワシも飲むから、チミも飲みたまえ! 我が星影法律事務所の宴会は、無礼講ぢゃからな。ワシが、よーく話を聞いてやるぞい!」

 若者に言い返す間も与えず、星影は彼のグラスにワインをなみなみと注いだ。そして、例の目薬入りカクテルを手に取って一気に空けてしまい、手酌で赤ワインを満たして無理やり乾杯を迫る。

「有望な新人の前途を祝して、カンパイぢゃ!」
「あ、あの……」
「何をしておる! カンパイしたら、まず飲み干さんといかんぞい! ほら、空けた空けた!」

 千尋のために仕掛けたカクテルもあっという間に飲まれてしまい、彼はすっかり星影のペースに巻き込まれている。

(よし……ひとまずこれで安心、だな)

 そんな様子を横目で見て、神乃木はしてやったりである。そしてそのまま、さっき注文した飲み物が置いてある席まで戻る

 と、ちょうどその時、千尋が戻ってきた。自分が座っていた席が星影に占領されているのを見てちょっと困った顔をしたが、神乃木の隣が空いているのを見つけると一転、ぱっと嬉しそうな表情に変わる。

 神乃木は千尋を呼ぼうとしていたのだが、そうするまでもなく、彼女は神乃木の隣まで駆け寄ってきた。


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