(……思った通りだ。やっぱり、コネコちゃんをジャラしている方が、ずっと楽しいぜ) 千尋と話しているうちに、神乃木は、珍しく酒の席で楽しんでいる自分に気づいていた。 (コネコちゃんさえ良けりゃ、この後いい店に連れていくなんてのも悪くねえな。……そう言えば、あの不届き者はどうなった?) 神乃木が横目で見ると、今にも潰されそうな様子の若者と、相変わらず上機嫌で容赦なく飲ませ続けている星影の姿が目に入った。ボトルはほぼ空になっており、おそらく、そのほとんどを例の男が飲まされたようである。 (ここまでは計算通りだな。……よし。邪魔をさせないためにも、きっちり仕上げといくか。) 千尋をつついて、神乃木は虫も殺さぬ顔で彼の方を指差した。 「おや、コネコちゃん。ソイツ、ジイさんにつぶされそうになってるんじゃねえか?」 「あ……本当ですね。さっきお酒は強いって言ってましたけど、星影先生のあの様子じゃ、相当飲まされているみたいですし。大丈夫かしら?」 「そうだな。……よし、コネコちゃん。ひとつ頼まれてくれるか?」 「あ、はい! なんでしょうか?」 神乃木は、千尋に渡したカフェオレと同じグラスを取り、一口飲んでグラスの中身を減らした後、ガムシロップを入れる小さな白いポットの中身を注いでかき混ぜた。 「あのボウヤにも、アイス・オーレを届けてやってくれ。甘いスペシャルブレンドだから、丁度いいだろ」 「わかりました。ちょっと行ってきます!」 千尋が席を立った時、ちょうどボトルが空になったようで、星影もご機嫌でどこかに行ってしまった。星影がいなくなるのを見届けて、若者は、気力を使い果たしたかのように机に突っ伏す。 そこに千尋がカフェオレを持って現れたものだから、嬉しい誤解をしたとしても彼を責めるのは酷というものだろう。明らかに勘違いたっぷりの表情で千尋からグラスを受け取り、そのまま一気に飲み干した。 しかし期待に反して、彼が止める暇もなく、千尋はあっさり神乃木のところまで戻って行く。それを見て男は、神乃木にあからさまな対抗心に満ちた視線を向ける。 (ステータスの飾りと酒の力がないとオンナ一人口説けないようなボウヤにゃ、コネコちゃんをどうこうさせるわけにはいかねえからな……) もちろん神乃木はそれに気づいていたが、あえて余裕たっぷりに無視してやった。 「彼、すごく喜んでいましたよ。飲み過ぎた時のソフトドリンクって、普段よりずっとおいしく感じますからね!」 「ああ。お使い、ご苦労さんだったな」 千尋は、むろんそんな水面下の暗闘など知るよしもない。そのまま神乃木の隣に座り、幸せそうにカフェオレの残りを飲みはじめる。 「今日は、センパイともう少しゆっくりお話がしたかったんですけど……ここ、もうすぐ時間ですよね?」 言われて神乃木が時計を見ると、確かに予約時間の終わりまであと20分というところだった。 |