千尋はオレの全てを受け入れようとしていることが、触れあう肌を通じて伝わってくる。 しかしその瞳には、ほんの少しだけ恐怖の影が見え隠れしていた……おそらく、噂に聞く痛みのことを考えているんだろう。 痛みを和らげるための特効薬は一つしかない。オレは全身に愛情を込めて千尋を抱きしめ、自分の持っている全ての優しさを込めて囁いた。 「……すまねえが、最初はちょっとばかり痛い思いをさせちまうはずだ。オレを信じて、力を抜いていてくれ……」 千尋は返事代わりにオレの頭を抱きしめてキスをし、静かにうなずいた。そして、まだ残っているかすかな恥じらいに頬を染めながら、ゆっくりと身体を開いていく。 オレは千尋の身体を注意深く押し開き、熱い昂まりをそっと押し当てた。 待ち受けている抵抗はきつく、初々しかった。しかし、蜜に満たされた入り口は柔らかく開いていて、オレを受け入れる意志が溢れている。 「千尋……愛している。今からオレたちは、一つだ……」 「荘龍……」 千尋はただ一言オレの名を呼び、心の底から幸せそうに微笑んで、オレを優しく抱きしめた。オレは、今日何度目になるかわかならいキスでそれに応える。 そのキスを合図に、オレは、ゆっくりと身体を進めていった。 「…………!」 千尋は目を閉じ、背中に回した腕で強くしがみついてきた。額にはうっすらと汗が浮かび、必死に痛みをこらえているのが伝わってくる。 今さら一つになることを止めることはできない……それは、千尋自身の望みでもあるはずだった。オレにできることは、身体の全てに愛情を込め、千尋を抱きしめることだけだ。 千尋の身体は、柔らかく、温かく、吸い付くようにオレを迎え入れる。 本能のまま激情に身を任せたい衝動を何とか抑えながら、極力痛みを与えないように静かに身体を進めてゆくうち、ついにオレは千尋のもっとも奥深くまで辿り着いた。 千尋は、ただ一声の悲鳴すらあげることなく、オレの全てを受け入れた。 ……今まで何度となく接してきたその気丈さが、たまらなく愛しかった。 「私達……ひとつになったの?」 オレが動きを止めてわずかな間をおいて、千尋は目を開いた。生まれたてのコネコのように無垢な瞳が、まっすぐにオレの目を見つめている。 「ああ、そうだ……オレたちは、今、一つになっている。……千尋、大丈夫か?」 額の汗を見れば“大丈夫”なわけがないとわかっていながらも、気遣う気持ちを言葉に出さずはいられない。 そんなオレに、千尋は懸命に首を横に振って応えてくる。 「今はまだちょっと痛いけど……でも、平気。荘龍のしたいようにして……」 「千尋……」 「だってさっき、私が気持ち良くなったら、荘龍も気持ち良くなったでしょう? だからきっと、荘龍が気持ち良くなったら、私も……」 そのどこまでも健気な言葉が、オレをさらに昂らせる。 不思議と、身体の結びつきを通じて、千尋が心からそう言っていることが伝わってきたように感じた。 「……わかった。じゃあ、行くぜ」 オレは、身体の中から突き上げてくる熱いものが促すままに、ゆっくりと千尋を愛し始める。 「荘龍、……ん、っ……愛してる……はぁ、んっ!」 千尋はオレに精一杯身体をからめて、懸命にリズムを合わせてくる。 その瞳は、一つになった時の身も心も安らいだ静かな歓びから、さっきまでの激しい情熱の色にだんだんと染まっていった。 「オレもだ、千尋……愛している……」 オレを包み込んでいる千尋の奥深くが次第に熱くなってくるのを感じながら、オレは夢中で千尋の身体にのめり込んでいく。 「ひぁん、はぁ……っ、荘龍、……あぁ……ふぅ、ん……っ!」 「千尋……っ!」 千尋はオレに何かを伝えようとするが、言葉にならない……だが、熱く潤んできた瞳や、奥から溢れてくる熱いものが、何よりも雄弁に千尋の気持ちを伝えてきた。 「はぁ、あっ……荘龍……私、私……ああ……っ!」 激しく乱れる千尋が、オレをますますアツくさせる。そして、オレがアツくなればなるほど、千尋も切ない声を上げて身をよじらせた。 「はぁん……あっ、身体が……、熱いの……!」 「ああ、オレもだ……!」 千尋が、さらに熱く、きつく、オレを締め付けてきた。 一緒に登りつめていこうとしているのが、お互い触れあっている身体からはっきりと伝わってくる。 「荘龍……ああ、もう私、……ふぅ、く……っ!」 「……クッ、そろそろ……行くぞ!」 愛する女を、この腕できつく抱きしめる。 千尋も、オレの身体にすがるように強くしがみついてきた。 「……荘龍、……き、来てっ!」 千尋の奥深くが、激しく脈打った。 同時に、オレの中に昂る熱いものが一気に押し寄せてくる。 「…………千尋、っ!」 一瞬、頭の中が真っ白になった。 突き上げてきた奔流が身体を駆け巡り、オレの中にある全てがほとばしる。 互いの結びつきを全身で感じながら、オレたちは共に高みまで登りつめた……。 そのまま、どれぐらいそうしていただろう。 オレは腕の中にいる、まだ余韻でぼんやりとした千尋の顔を見つめた。 安心しきった子供のようにオレに身を寄せてる無防備なさまが、たまらなく愛しかった。 オレがそっと頬を撫でると、千尋は静かにオレを見上げた。 その表情は、満足した猫のように穏やかで、幸せに満ちあふれている。 「荘龍……」 千尋は、甘えるようにオレの首に抱きついて、顔を上げた。 オレはリクエストに応えて、そっと千尋にくちづける。 「千尋……愛している。オレは、お前のそばにいる……明日までじゃなく、これからずっと、だ」 千尋が目を閉じ、キスを返してくる。 「私もよ……愛してる。荘龍がそばにいてくれるなら、私、もう一度前に進んで行けるわ……」 千尋らしい、健気な言葉。 だが、今の千尋には、無理して健気にふるまっていた時の張りつめたものは感じられない。つらい時には寄りかかってもいいことを知った、しなやかな笑顔がそこにあった。 「……ああ。だが、今はゆっくり休むことだけを考えろ。千尋が眠るまで、オレは、ずっとそばにいる」 千尋はこくりと頷いて、オレの胸に顔をうずめた。 「お休みなさい、荘龍……」 千尋は、目を閉じて静かな息遣いをたてはじめる。 オレは約束通り、それが寝息に変わるまで、ただじっと千尋を見守り続けた。 |